ガザの人々を殺すな!実行委員会 公式ブログ (Committee for Stop Killing in GAZA)

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「ガザ大虐殺に寄せて」早尾貴紀(東京経済大学)

 ガザ大虐殺が起きています。ついに、2008-09年にかけての大空爆・陸上侵攻で1400人が殺害されたときの規模を超えて、今回は1500人以上の死者が出ています。その8割以上が一般市民です。それに対して、イスラエル側に出た約50人の死者のほとんどが、このガザ攻撃の軍事作戦中に死亡したもので、市民の死者は数人です。しかし、これをメディアは相変わらず、「イスラエル軍原理主義組織ハマスとのあいだの攻撃の応酬」あるいは「報復の連鎖」と表現し続けています。これは何重にも間違いです。

 

 もちろん、武力の規模が圧倒的に違う、ということはあります。持っている軍事力からしたら、イスラエルのほうが一千倍なのか一万倍なのかと論じること自体が無意味なほど比較になりません。しかしこれは、大きさの違いという相対的な問題ではありません。というのも、「イスラエルハマスという二つの勢力が争っている」という図式そのものが間違いだからです。

 

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 そもそも「ガザ」とは何かということから確認すべきです。イスラエル国境とエジプト国境と地中海岸に囲まれた、ガザ市を含む一帯を「ガザ地区」と呼ばれていますが、英語ではGaza Strip、つまり「細長い一片」と表現されるように、平均横9km×40km360平方キロメートルほどの小さな土地にすぎません。日本語でも「ガザ回廊」という呼称もあります。

 そこに住んでいる人は誰なのかと言うと、大半の住民が、1948年にイスラエルが建国を宣言するまでにそのイスラエル領にされてしまった土地に住んでいた人びとが、その土地を奪われて難民として逃げ込んだのですが、そうした難民およびその子孫です。言ってしまえば、ガザ地区に難民キャンプがあるのではなく、「ガザ地区そのものが難民キャンプとして存在している」のです。

 その土地にいまでは180万人にも達する人びとが暮らしています。封鎖と占領のために、まともな産業はありません。物資を運び込もうにも、逃げ出そうにも、陸海空すべての経路が閉ざされている。そういう状況で、軍事攻撃を加えれば、市民の犠牲者を出すのは不可避なわけで、イスラエルは当然わかっていて攻撃をしています。

 

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 次に、イスラエルにとって「ガザ地区」とは何かを考えます。資源上のメリットは小さい。180万人の抹殺を狙っているわけでもない。長いイスラエルの占領政策を見ていると、ガザはイスラエルにとっての「実験場」であると言えます。パレスチナ人を支配するために、被占領民にIDカードを導入する、壁やフェンスで囲い込む、といったことは、いまでは西岸地区にも当然のようにされていますが、すべてガザで先行的に行なわれたものです。土地と水という資源的なメリットは西岸のほうがはるかに大きい。そこを収奪するために何が有効なのか。それをガザ地区で実験しているわけです。

 また、兵器の実験場という意味合いもあるでしょう。イスラエルは最新の武器の開発国でもあります。開発した武器を実戦で使い、効果を確かめるわけです。また、国の大きさからすると不自然に大きな軍事予算をもつ軍事国家です。一定周期で大規模な軍事行動がないと、その必要性を訴えたることができないという事情もあります。一方的な殺戮になろうとも、何らかの「正当性」を見つけて軍事行動に走る。ガザは格好の場所として繰り返し餌食にされています。

 

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 その「正当性」がこの数年は「ハマス」となっているので、次にハマスとは何かを考えます。イスラエルにとって、ハマスは本当の脅威ではありません。ここしばらくは、ハマスが敵対的だということで、攻撃を正当化するのに利用しているだけです。

 かつては、PLOパレスチナ全土(つまり現イスラエル領を含む)の解放を訴える中心的な抵抗組織でした。しかし1980年代には、イスラエル国家の存在を認め、西岸地区とガザ地区だけの「ミニ・パレスチナ国家」へと主張を降ろし、さらには93年のオスロ合意以降は、「自治政府」を承認してもらう替わりに事実上西岸地区のユダヤ人入植地も容認してしまいました。

 こうしたPLOの堕落と反比例して支持を集めてきたのがハマスでした。オスロ合意を批判し、「パレスチナ解放」の原則を維持しました。ところが、2006年のパレスチナ総選挙で勝利し与党となってからは、イスラエル国家を容認し、西岸地区・ガザ地区でのミニ・パレスチナ国家路線へと転換。言わば「現実路線」へと修正してきているわけです。

 しかし、イスラエルがかつてPLOのミニ・パレスチナ案さえも認めなかったことを思い起こすべきです。それは事実上、西岸地区のなかにある巨大なユダヤ人入植地群を撤去することを意味しますので、西岸地区の永久支配をもくろむイスラエルにとっては妥協できない点なのです。ですので、ハマスにとっての現実路線化である西岸・ガザのミニ国家案は、イスラエルにとっては現実的ではない。だからハマスとは交渉しないで叩く、というわけです。ここには、宗教とか原理主義とかは一切関係ありません。

 かつてのPLOに対する姿勢であれ、いまのハマスに対する姿勢であれ、イスラエルに一貫しているのは、「西岸地区は絶対に手放さない」という強固な意志なのです。PLOは無力化され飼いならされました。次はハマスが無力化されるでしょう。しかし、民衆がパレスチナ解放という原則を諦めなければ、また違う何らかの抵抗運動が育っていくでしょう(党派というかたちをとるとは限りません)。イスラエルが恐れているのは、ハマスではなく、「パレスチナ解放」という理念であり、それを具体化させる抵抗運動すべてなのです。PLOハマスというのは、そのときそのときの一対象にすぎません。

 

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 ですので、このガザ攻撃でイスラエルが潰そうとしているのは、ハマスではなく、西岸も含めたパレスチナ全土なのであり、またパレスチナ解放という理念なのです。空爆を止めろ、市民を殺すな、ガザ地区の封鎖を解け、というだけでは批判として十分ではありません。私たちは、かりに空爆が止まったとしても、つねにイスラエルの占領政策全体を批判し続けなければならないと思います。